鹿児島地方裁判所 平成8年(わ)286号 判決 1997年7月23日
被告人
氏名
奥薗道明
年齢
昭和二三年一月三〇日生
本籍
鹿児島県揖宿郡頴娃町御領三八四五番地
住居
福岡市城南区片江三丁目二五番三〇-二〇二号
職業
会社役員
検察官
中尾英明、原山和高
弁護人
前田稔(国選)
主文
被告人を懲役一年六月及び罰金六〇〇万円に処する。
未決拘置日数中一八〇日を右懲役刑に算入する。
右罰金を完納することができないときは、金三万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
この裁判確定の日から四年間右懲役刑の執行を猶予する。
訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
(犯罪事実)
被告人は、自己の経営する会社の資金繰りに苦慮していたところ、平成五年一月ころ、知り合いの高原博喜から夢工房サンコー有限会社の会長で全国同和連合会会長を自称する濵畑康正を紹介され、同人らから、濵畑が同和団体の力を背景に、国税局や税務署に圧力をかけて税金を安くしたり、金融機関に融資の条件を変更させたりしているので、顧客を紹介するように依頼され、そのころから報酬を目当てに濵畑や高原に顧客を紹介するいわゆる代理店として活動していたものであるが、
第一 大城繁盛、濵畑康正、高原博喜、朝木正生らと共謀の上、大城繁盛の所得税を免れることを企て、沖縄県島尻郡豊見城村字田頭田原所在の大城所有の土地を国に売却譲渡したにもかかわらず、右土地が被告人の所有であるかのごとく装って譲渡収入を除外して所得を秘匿した上、
一 大城の平成五年分の実際総所得金額が七五六万三七五三円で、分離課税による長期譲渡所得金額が三億七四二一万〇四一〇円であったにもかかわらず、平成六年三月一四日、那覇市旭町九番地所在の所轄那覇税務署において、同税務署長に対し、平成五年分の総所得金額が七五六万三七五三円で、分離課税による長期譲渡所得はなく、平成五年分の所得税額は六一万六七〇〇円である旨の虚偽の所得税の確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額五六八九万八二〇〇円と右申告税額との差額五六二八万一五〇〇円を免れた。
二 大城の平成六年分の実際総所得金額が九四七万四八一四円で、分離課税による長期譲渡所得金額が一億〇一四五万四四〇二円であったにもかかわらず、平成七年三月一四日、前記那覇税務署において、同税務署長に対し、平成六年分の総所得金額が九四七万四八一四円で、分離課税による長期譲渡所得はなく、平成六年分の所得税額は八五万九六〇〇円である旨の虚偽の所得税の確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額一四五二万〇八〇〇円と右申告税額との差額一三六六万一二〇〇円を免れた。
第二 柏木カズ子、柏木謙作、濵畑康正、高原博喜、舛田英二、関孝成と共謀の上、柏木カズ子がその所有する土地を売却譲渡したことに関し、右譲渡にかかる同人の所得税を免れることを企て、同人の実際の平成七年分の分離課税における長期譲渡所得金額が六二三二万六一七六円で、これに対する所得税額は一六五三万三八〇〇円であったにもかかわらず、分離長期譲渡所得の計算において、柏木カズ子が右高原に対する六二〇〇万円の保証債務を履行したが、その求償が不能になったかのごとく仮装して所得を秘匿した上、平成八年三月一四日、鹿児島市易居町一番六号所在の所轄鹿児島税務署において、同税務署長に対し、分離課税における長期譲渡所得金額が三二万六一七六円で、これに対する所得税額は零円である旨の虚偽の所得税の確定申告書を提出し、もって不正の行為により、右譲渡にかかる正規の所得税額一六五三万三八〇〇円全額を免れた。
(証拠)
括弧内の番号は検察官請求の証拠等関係カード記載の番号を示す。ただし、併合前の那覇地裁平成八年(わ)第三二八号事件(当庁平成九年(わ)第九八号事件)記録中の証拠等関係カード記載の番号についてはアの符号を付して区別する。
判示事実全部について
一 被告人の公判供述
判示第一の一、二の各事実について
一 併合前の那覇地裁平成八年(わ)第三二八号事件の第一回公判調書中の被告人の供述部分
一 被告人の検察官調書(乙アの一ないし四)
一 大城繁盛(甲アの一ないし七)、平良銀勇(甲アの八ないし一二)、津嘉山善建(甲アの一三、一四)、高原博喜(甲アの一五ないし二一)及び朝木正生(甲アの二二ないし二五)の各検察官調書謄本
一 検証調書謄本(甲アの二七)
一 大蔵事務官作成の譲渡収入調査書(甲アの二九)、取得費調査書(甲アの三〇)、譲渡費用調査書(甲アの三一)、特別控除額調査書(甲アの三二)、賃貸料(その他所得・不動産所得)調査書(甲アの三三)、受取利息(その他・雑所得)調査書(甲アの三四)、支払利息(その他所得・雑所得)調査書(甲アの三五)、脱税額計算書(甲二八、二九)及び脱税額計算書説明資料(甲三〇)の各謄本
一 電話聴取書(甲アの二八)
判示第二の事実について
一 被告人の検察官調書謄本(乙一ないし五)
一 柏木カズ子(甲七)、柏木謙作(甲八ないし一〇)高原博喜(甲一一ないし一五)、舛田英二(甲一六、一七)、関孝成(甲一八ないし二〇)、木場英幸(甲二一)、武末昌秀(甲二二)及び鬼丸義生(甲二三)の各検察官調書謄本
一 奥薗眞智子の検察官調書(甲二四)
一 検証調書謄本(甲三ないし六)
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書謄本(甲二五)及び脱税額計算書説明資料謄本(甲二六)
一 捜査報告書(甲二七)
(法令の適用)
罰条
判示第一の一、二の各行為につき
いずれも平成七年法律第九一号(刑法の一部を改正する法律)附則二条一項本文により同法による改正前の刑法六〇条、六五条一項、所得税法二三八条一項
判示第二の行為につき
刑法六〇条、六五条一項、所得税法二三八条一項
刑種の選択 いずれも懲役刑及び罰金刑を選択
併合罪の加重
懲役刑につき
前記附則二条二項前段、刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(最も犯情の重い判示第一の一罪の刑に法定の加重)
罰金刑につき
前記附則二条二項前段、刑法四五条前段、四八条二項
未決勾留日数の算入 刑法二一条
労役場留置 刑法一八条(金三万円を一日に換算)
刑の執行猶予 刑法二五条一項(懲役刑について)
訴訟費用の負担 刑事訴訟法一八一条一項本文
(量刑の理由)
本件は、被告人が、いわゆる脱税請負グループを組織し全国同和連合会会長を自称する濵畑康正やその配下の者及び納税義務者と共謀し、判示第一の大城の件では同人所有の土地を被告人所有であると偽ることにより、大城は右土地の譲渡所得を申告せず、二年分で約七〇〇〇万円の所得税を免れ、判示第二の柏木の件では、架空保証債務を計上し、これを履行するために土地を譲渡したが、その求償が不能になった旨の虚偽の所得税確定申告をし、一六〇〇万円余りの所得税を免れたという悪質な組織的犯行である。
被告人は、報酬を得ることを目的として、平成五年ころから、濵畑らに脱税の依頼者などを紹介する、いわゆる代理店として活動してきたものであり、判示第一の各犯行においては、大城が売却した土地については被告人が実質的所有者であると偽っており、平成五年分については被告人名義で右土地の譲渡所得の虚偽の所得税確定申告書まで提出し、判示第二の犯行においては、脱税の依頼者である柏木カズ子らを濵畑らに紹介するなど、いずれの犯行においても重要な役割を果たしているのであって、その利欲的な犯行動機に酌量の余地はなく、本件への関与の程度も決して小さくない。さらに、本件各犯行によるほ脱額が合計八六四七万円余りもの高額にのぼっており、ほ脱率がいずれも極めて高率であること、判示第二の犯行においては、虚偽申告の裏付け証拠を作成する目的で、虚偽の金銭消費貸借契約書を作成した上、起訴前の和解の手続きを悪用して和解を成立させ、あらかじめ高原に開設させておいた同人名義の銀行口座に納税義務者である柏木カズ子から金員を振込人金させて、柏木カズ子が右和解結果に基づいて保証債務を履行したかのごとく仮装しているのであって、犯行態様は巧妙で悪質であること、被告人は、本件各犯行により、合計一一二二万円もの多額の報酬を得ていること、被告人は、約三年の長期にわたって、脱税請負グループと行動を共にしてきたことなどを併せ考えると、被告人の刑事責任は重いというべきである。
しかしながら、被告人は、脱税請負グループの中ではいわゆる代理店として相対的に低い地位に留まっていること、被告人は、二〇年以上前に業務上過失傷害罪による罰金前科があるのみで他に犯罪歴はなく、長期間の身柄拘束を経て、現在では事実を素直に認めて本件を深く反省し、今後は二度と過ちを犯さないことを誓っていることなど被告人のために酌むべき事情も認められるので、これらの情状を総合考慮して、被告人には主文の刑を科した上、今回に限り懲役刑の執行を猶予することとした。
よって、主文のとおり判決する。
(求刑・懲役一年六月及び罰金六〇〇万円)
(裁判長裁判官 山嵜和信 裁判官 牧真千子 裁判官 中桐圭一)